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白い花

2003/02/09公開

  「リズ!リズ…もうあの娘ったら…いったい何処へ行ったのかしら?」

マリアは一人娘のリズをあっちこっちの部屋を覗いて探し回っていた。マリア

の家は、戦争で親を失った子供たちを引き取って育てる孤児院をしていて、そ

の一角に孤児たちと家族のようにして暮している。

今日、マリアはとても嬉しかった。宇宙を行ったりきたりする惑星間輸送船の

キャプテンをしている弟のマイケルが、本当に久しぶりに家に尋ねて来ること

になっているのだ。何年ぶりになるだろう。前に来た時は今はもう十三歳にも

なるリズが生まれてまだ間もない頃だった。窓にうつった自分の顔を見て思わ

ず足を止めた。

「おばさんに…なったかな…。」

外には青い空が広がっている。真っ白な、白い綿のような雲が浮かんでいた。

マイケルが輸送船に乗ったのは、こんな日だった。キラキラと夏の陽射しが眩

しかったのを覚えている。輸送船は一年に一度は帰っているのに、マイケル

はずっと立ち寄ってはくれなかったのだった。

「やっと逢える。」

マリアの胸は、まるではじめてのデートをする少女のように高鳴った。

  「リズ、やっと見つけた。」

声をかけたのは、マリアの孤児院最年長のギルバート。リズは家の裏にある

小高い丘の上に座って、一人一所懸命スケッチブックに向かっていた。

「リーズ…何だ…こりゃ…?」

覗き込んだギルバートは真剣に悩んだ。

「え?なぁに?」

「お母さんが探していたよ。」

「へえ?何かなー?」

「おじさんが来るんだって。」

「おじさん…?」

「ああ。」

「…ああ、そういや前にそんなこと言ってたっけ。いつも、バースデーにカードを

くれるおじさん?顔も知らないけど。」

「ふぅん…。ねー、何描いてるんだい?」

「あら?解からない?ここから見えるホームタウンよ。ホラこれが時計塔でこ

れが教会…。」

「…説明聞いてもそう見えないぜ…。」

「侮辱っ…。」

「あー、とにかく、マリア先生が探してた事、伝えたからね。」

「ありがと…。」

ギルバートはリズのすねた顔を見て、くすりと笑った。

「じゃ、俺行くから。」

「待って、一緒に…私も帰るわ。」

リズはギルバートのことが好きだった。彼はそっけない事を云うが本当はやさ

しいのだ。

ギルバートは今年十八になり、四ヶ月後には孤児院を出る。彼は実際の歳よ

り大人びて見える。彼の三白眼のせいだろうか。本当にちびの頃から知って

いるリズのことなんてまったくの妹ぐらいにしか思えないのは無理もないけれど。

「ギルバート、私の夢は画家になる事なのよ。」

「ぶっ!夢なぁ…ま、いいか…。」

「ギルバート、今日の夜はどうするの?」

「ん?これからバイトだよ。それから、夜は…内緒だよ。門限やぶるかもな。」

「どこ行くの?」

「へーん、お子サマには内緒だ。」

ギルバートはリズの頭をくしゃくしゃっとなぜた。

「あ、マリア先生に云うなよ。」

「…云わないわよ。」

「いい子だ。じゃ俺行くから。」

リズのおでこに軽くキスをして、ギルバートは小走りでホームの建物の中へ消

えて行った。リズはおでこを押さえて、ギルバートの後姿を目で追った。リズの

方は歳より幼く見える。やせっぽっちで、そばかすだらけの鼻。大伯母さんに

〈パパに似たのね。〉〈ママに似れば良かったのに。〉と云われたのを憶えてい

る。三歳だった。でも憶えている。この事はお母さんは知 らない。

「リズ!ここに居た!探したわよ。」

「あ、お母さん。ギルバートに聞いたわ。」

「おじさんが来るの、今日、もうすぐここに着くのよ!」

「おじさんって船に乗ってるマイケルおじさんよね?」

「そうよ、あなたは赤ちゃんの時に会ったきりね。」

「どんな人なの?お母さんに似てる?写真見せてよ。」

「…写真はないわ。マイケルは写真がキライなのよ。」

二人は肩を組み家の中に入った。

「お父さんも今夜帰って来るって。」

マリアの夫・アダムスは医者としていろいろなボランティア活動に参加してい

て、孤児院の仕事のかたわら、いつもとびまわっている。

「本当?」

「ええ。」

「お父さん、二週間ぶりねっ。お母さん、嬉しそう!」

そう云ってるリズの方も嬉しそうだ。リズはマイケルを本当のマリアの弟だと思

っている。マリアも昔の事はリズに話していなかった。

  「ジョシィー、僕、道間違えたのかなぁー?」

「こっちであってると思うけど…このカーナビ壊れちゃってるから…。マイケル

は一本道だから大丈夫だって云ったきり寝ちゃったし…。」

後ろの席で死んだように眠っているマ イケル。

「昨日遅くまで仕事してたよね。」

「あ、ジョシィー、前からバイクが来た。聞いてみよう。」

「すいませーん。」

車を降りて手を振ったジョシィーに気が付き、バイクは止まってくれた。

「こんにちは、どうかしました?」

「あの、道を尋ねたくて。〈メイプル通り〉ってこの道でいいんですよね。」

「ああ、一本道だから大丈夫だよ。」

バイクは街へ向かう途中のギルバートだった。

「もしかして、メイプルハウスのお客さん?」

「ええ!あなたそこの人?」

「ああ、マリア先生首を長くして待ってますよ。」

「わぁ、本当?あなたは出かけるの?」

三人は握手をしあった。

「今から街でバイトです。僕はギルバート、あなたがマイケルさん?」

「違うよ、マイケルさんはこっち。」

ドクターは後部席で爆睡しているマイケルを親指でさした。

「僕は友人で船のドクター、こっちは看護婦のジョシィー。じゃ、またね、足止めてご免ね。」

「いえ、じゃ、気を付けて。」

「ありがとう。」

バイクは街の方へ走って行った。

「行こっか。」

「はい。うーん、気持ちいい。 良いお天気。」

ジョシィーは背伸びをした。

「ドクター、五分だけ待って。」

「いいよ、しばらく休憩しよう。」

ゆらゆらと道の向こう側からは、かげろうが上ってる。

「きれいな所だね…。」

「ええ。」

疲れ果てて眠っているマイケルの前髪が風で揺れた。キャプテンの仕事は大

変なんだ、とジョシィーは思った。

青い空、緑の草原が広がっていた。

つづく

  公開は7ページまでです。(全40ページ)

 

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