赤い実
2003/02/09公開
| お風呂から上がると、深夜放送の映画がはじまっていた。別に見ようと思っ ていたわけじゃなくて、ただ何となくぼんやりつけっぱなしになっていたニュー ス番組が終わり、いつのまにかその映画は始まっていた。政治のニュースは わけが解らない。戦争のニュースはもうやめて。心にしみるホットなニュースは 最近記憶にない。ビールのCMが一番おもしろかったりする・・・。 映画は字 幕、何語だろう?英語ではない。 大人ぶってビールの缶をあける。「うーん、美味しい。」でも、いつも最後までは 飲めない。魔法のように美味しいのは一口めだけ。この間思いきってカットし た髪はまるでドングリ。ちかごろショートヘアーの女の子が増えてきた。テレビ で見るあの女優さん、街で見かける可愛い子。でも私はあんなに素敵にならな かった。ちょっと後悔。でも、いい。洗うのがらくちん。周りの人は決まった風に (失恋〜?。)なんて聞くんだわ。 あ、この俳優さん、あの人に似ている・・・笑った時にできる目の横のしわ、ちょ っとだけ重なった前歯も、歩き方までそっくり。 今頃あの人はどうしているんだろう?眠っているのかな。それとも同じこの映 画を見たりして。 テレビマガジンで映画のタイトルを探して見る。十年も前のフランスの作品。 この俳優さんも今ではいいおっちゃんかな? (好きだ、愛してる・・・) 「私もよ・・・私はずっと好き、出逢った時から。」映画に返事なんかして、ビール がまわったのかな?。 映画のように私の気持、云えっこない。あの人は私よりもずっと大人で・・・・・・ 私のこと、どう思ってるんだろう?いつもやさしく話しかけてくれる。キライでは ないよね。 ビールをもう一口・・・・・・にがい。 友達とランチにはいった、安くて美味しいイタリアンレストラン。メニュー片手 に迷う私を尻目に友達はさっさと注文を済ませた。 「えっと待ってよ・・・うーんとうーんと。」 さんざん悩んだ結果 「この人と同じ物・・・」 「昨日深夜に・・・映画やっていたの見た?」 友達がにやにやして云った。 「え!あなたも見ていたの?私も見たわ。でも途中からでストーリーがわからな かった。」 「あの最後に死んじゃう役の人・・・ あの人に似てなかった?」 「・・・似てた!死んじゃう役なんて最後で、泣いちゃった。」 「ふふふ。」 友達は私があの人に恋しているのを知っている。 「なによ!。その笑い方。」 「あの俳優、ゲイって知っている〜?んで十年前に撮影の事故で死んでるんだ よ〜。」 「ええーっなんかショック。」 「あの人もゲイだったりして。」 「やめてよ悪い冗談っ。」 でももしそうだとしても・・・好き。 「おまたせしました。」 ウエイターが湯気のたったパスタを運んできた。美味しそう、でも隣りの席に運 ばれて来たのも魅力的。今度はあれにしよう。 二人はしばし無口になり、パスタをほおばった。 「ねえ (すき) と (恋) と (愛) はどう違うと思う?」私が尋ねると、 「云い方が違うんじゃない?」と友達。 「それだけ?」 「じゃあ卵に例えると、好きがプレーンオムレツ、恋が目玉焼き、愛がスクラン ブルエッグってとこかしら。」 「その例え、ますます解らないわ。」 「じゃあ、出世魚にたとえると せいごが好き、ふっこが恋で、すずきが愛。」 「あははっもーいいわよ。」 「あっ・・・。」めくばせで友達が私に合図。 振り返ってみるとあの人が店に入ってきた。 「よっ、お前さんたちも昼メシか。」 「ご一緒しません?」 「いいかな?」 こくこくとうなずくことしか出来ない私。さっきほおばったパスタが口のなかで渦 巻いてるから。 「それ何食ってるの?」 「ボンゴレビヤンコです。」 「ふーん、うまそうだな。」 頬杖をついてメニューをながめる彼の顔が、昨日の 映画の1シーンとだぶる。どきどきしてパスタをからめたフォークが震えてい る。どうか彼が気付きませんように。パスタのお皿にはトマトの絵。私はふっと (好き) は小さな双葉。 (恋) はつぼみ、 (愛) は赤い実だと思った。 今日は、ビデオショップで昨日の映画を探して帰ろう。今はまだ、じっとあな たの顔を見つめることが出来ない、吹けば飛ぶようなつぼみだから。 END |
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